採用理由書

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採用理由書


 技術・人文知識・国際業務ビザでも技能ビザでも、外国人を採用する場合には、必ずと言っていいほど入管に提出する書類で、会社概要書、会社登記簿謄本、決算書等と一緒に準備する「採用理由書」。上記在留資格に、採用した外国人の方が該当している、という事を疎明する資料としてとても重要です。

 ただし、たしかに採用理由書は重要ですが、就労ビザにおいては、会社決算書類や会社案内書、その他会社に関する資料(謄本、従業員名簿、取引明細、実績など)などや申請人の学歴証明書や職歴証明書などの証拠書類も同じくらい大切です。したがって、採用理由書は、それら証拠書類では説明できない部分を補強する、という位置づけになるかと思います。けしてメインの書類ではありません。
 
 以下に、作成のポイントとなる点及び記載例をご紹介いたします。ご参考になれば幸いです。また、採用理由書ではありませんが、申請人(採用した外国人)本人が作成する「入国のお願い(入国理由書)または、在留資格変更のお願い(在留資格変更理由書)」も用意できれば、就労ビザの許可を下す入国審査官の様々な懸念を払しょくするのに効果があると考えられますので、併せてご紹介させていただきます。


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採用理由書作成のポイント


 
 採用理由書を作成するポイントは、就労ビザを取得するためのポイントを押さえて作成することですので、結局は、まず就労ビザを取得する際のポイントを理解することに尽きると思います。就労ビザを取得する際のポイントを理解すれば、採用理由書において、積極的に記載すべき事、記載する必要が無い事、記載することに注意が必要であること等が見えてくると思います。

 以下にポイントを列挙しますので、御社の状況や申請人(採用外国人の方)の状況と照らし合わせながら勘案してみてください。

 ①御社の状況(経営・財務状況)は良好ですか?
   就労系ビザの審査に「事業の安定性及び継続性」があります。これらの立証は、
  基本的には、直近の会社決算書類によって判断されます。会社の経営状況が悪化
  しているようだと注意が必要です。
   
   入国管理局審査官は、御社が新たに外国人を採用して、ちゃんと給料を支払っ
  てあげられるのか?と危惧しています。採用したのはいいが、すぐに倒産して採
  用外国人の方が路頭に迷う、ことを心配しています。新たに外国人を採用しても
  、仕事もあり給料もしっかり払えるということを立証しなければいけません。

 ②雇用条件は適切ですか?
  日本の労働基準法に則った雇用契約であるべきです。外国人である事を理由に、  他の同時期に採用された日本人と雇用契約において不利な点などはないでしょうか
 ?同時期に採用され、同内容の業務でしたら、同じ雇用契約になるのが通常です。
  
  また、審査基準に「日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受
 けること」という文言があります。同内容の仕事で新卒日本人を21万で採用し、
 外国人留学生を17万で採用していたりすると、それだけで不許可の可能性がでて
 きます。給料に差をつけるならば、その合理的理由が不可欠です。
 
  「報酬」とは、基本給及び賞与のことであり、住宅手当、扶養手当、通勤手当等
  は含みませんので注意が必要です。

 ③任せる予定の業務内容は適切ですか?
  技術・人文知識・国際業務などの上記ビザでは、単純労働は認められていません。これらの就労ビザは、大卒などに裏付けされたある一定水準の学術、知識、経験が要求される業務が想定されています。室内清掃、タイヤ交換、単純接客、単純事務などの単純労働ばかりさせていてはいけません。採用外国人の方が担当する業務内容は適切でしょうか?任せる業務の専門性は、具体的に詳細に説明すべきです。時には写真や図などを用いてでも、業務の専門性をしっかりとアピールしましょう。
 
 また、大学等で専攻した科目と担当業務との適合性も大切です。専攻が貿易系なら貿易業務、機械工学なら工作機械の設計などという感じです。この適合性に関しても、具体的に詳細に記載すべきです。
 
 もっとも、この専攻科目との適合性は、日本の大学を卒業していれば、ある程度柔軟に判断していただけます。大学等で修学する内容は多岐にわたり、また、仕事として必要になるスキルも多岐にわたるからです。例えば、貿易業に従事するにしても、貿易実務はもちろん、語学能力、国際流通の知識、国内マーケティング、取扱製品に関する科学知識など、業務を円滑に行うには様々な知識が要求されます。
 
 さらに、日本の専門学校を卒業した場合、専門学校で学んだ内容と担当業務との適合性がかなり厳しくチェックされます。また、日本の大学等を卒業してすぐに就職する場合(留学ビザからの変更申請)と、海外から呼び寄せて採用する場合(認定証明申請)とでは、前者の方が担当業務の適合性は緩く判断されます。この辺りにも留意していただきたく思います。

 ④御社にとって採用外国人は、「是非ウチで働いてくれ!!」と言える人物ですか?
 採用理由書には、「申請人(採用外国人の方)を採用に至った経緯」を記載します。技術・人文知識・国際業務や技能ビザなどの就労系ビザを取得できる外国人の方というのは優秀な方が多いです。また、そのような外国人を対象としています。したがって、現場作業ばかりの単純労働や、誰でもできる単純な事務ばかりではもちろんビザ許可は下りません。それなりの知識や能力が必要とされる業務でなければなりません。御社にとってそのような大切な業務を、御社の中核を担う業務を任せるのであれば、採用プロセスはそれなりの過程を経るはずです。

 ご承知の通り、大きな会社などでは、会社の中核を担う人物の採用(内定)を決定するまでには、履歴書の審査から始まり、筆記試験、グループ面接、人事担当者との複数回の面接、社長との面接・・・と泣きたくなるくらいのプロセス(労力)を経ているのが通常です。会社の中核を担う人物を採用するのですから、当然の事ですが、採用する人物の能力や人格、素養・学識などはいくら調査してもしすぎることは無いと思います。最終的には、「よっしゃー!是非ウチで働いてくれ!いつから来れる?」と社長さんが確信できるような人物が採用されることが多いと思います。

 このように、会社側も採用される外国人側にも大変な労力や時間がかけられて採用に
至る事が多いわけですが、結局は、この採用のプロセスこそが、「なぜこの外国人を採用する必要があるのか?」という入管審査上も重要な項目を疎明することになるのです。
 また、よく問題になるのが、就労ビザがおりたら○○○万円・・・という裏契約の存在です。実際、日本のビザは、特に、新興国の方々には人気がありますので、日本の雇用主と採用外国人やその仲介者との間で、そのような取り決めがなされることがあります。こういったことを生業にしている方が存在します。普通に申請したのでは許可が得られない(基本的な要件を満たしていない等)ので、仲介者に高い料金を払って、ムリにビザを取ろうとします。そういった申請は、多分に虚偽が含まれているものです。もちろん、入管審査官は、このような輩にビザを発行してしまわないよう目を光らせています。

 つまり、採用に至った経緯がしっかりしているという事は、「ビザ取得の便宜を図って申請人を雇ったわけではない」、という事を入管審査官に説明していることに他なりません。「是非ウチで働いて欲しいッ!」という理由を入管審査官に説明していただけたらと思います。





採用理由書作成例


 それでは、採用理由書の作成例をご紹介いたします。ご参考になれば幸いです。

【記載例】
                                  2017年○月○日 
○○入国管理局長 殿

                               愛知県名古屋市○-○-○
                               株式会社○○○
                               代表取締役○○△△  ㊞

                  
採用理由書

申請人 :○□□(男)
国籍  :中国
生年月日:19○○年○月□日

 上記の者を当社にて採用いたしますので、ご審議のうえ、在留資格「技術・人文知識・国際業務」のご許可を賜れますようよろしくお願い申し上げます。

1.当社の概要
 当社は平成○○年△月に設立した総合貿易商社であり、資本金○○○○万円、昨年売上高は○億円であります。主な業務は、飼肥料の輸出及び輸入販売で、東南アジア(主に中国や台湾、インドネシア)に向けて輸出販売しております。主な海外取引先は、○○有限公司、△△有限公司などであり、主な国内取引先は、○○飼料株式会社、○○水産株式会社などです。
 当社は設立以来、当社商品を主に中国国内の水産会社や養殖業者に販売しており、中国企業との取引実績が豊富で、着実に売り上げを伸ばしてきました。近年も、中国産の養殖魚は中国国内及び海外にも人気が高く、当社商品の需要は伸びています。これまでの中国企業との取引関係やノウハウをベースにしながら、今後もより一層の販路拡大を目指しております。

2.○□□氏を採用する必要性及び担当業務

 当社は設立以来、中国企業との折衝業務等(中国企業との商談、中国取引先対応、来日時の対応、日常的な連絡業務、中国企業及び市場の現地リサーチ)は、中国在住経験があり中国語の堪能な○○◇◇氏(現在、専務取締役)がほぼ1人で対応しております。しかし、中国企業との取引が増加している現在においては、○○氏1人で対応することは不可能となり、緊急に○○氏の補佐を行える人材が必要となりました。これら業務を円滑に遂行するためには、中国語及び日本語が堪能であることはもちろん、中国取引先担当者とのコミュニケーション能力、中国商習慣や市場動向の知識及び情報収集能力、当社取扱い製品の深い理解及び貿易実務全般の知識が必要不可欠となります。
 そこで、昨年の8月頃よりインターネットを通じて国内及び国外に向けて募集を行いました。合計○○名の応募があり、筆記試験、1次面接(中国語と日本語)、最終面接(社長)を行い、○□□氏を採用することが当社の発展にとってもっとも有益であると結論に至りましたので、雇用条件を提示し、両者合意に至りました。

3.○□□氏の経歴及び当社の評価
 ○□□氏は、日本の△△大学国際ビジネス学部国際情報学科を卒業しており、日本語能力試験1級を取得しています。また、現在は中国現地にて、中国日系企業である○□△商貿有限公司に営業・貿易実務担当として在籍しており、4年の貿易実務経験があります。採用面接を通して、日本語能力に問題はなく、人柄も自分の意見をしっかりと持ち、意思が強く、ユーモアもありコミュニケーション能力も高いことを確信致しました。入社後は、3か月ほど集中的に当社商品知識及び貿易実務を勉強してもらい、その後は、当社と中国取引先企業との連絡業務及び販路開拓、貿易実務全般などを担当してもらいますが、○□□氏にはその能力があると確信し、将来的には、当社の中国での事業発展の指導的立場になってくれるものと期待しております。

4.結語
 ○□□氏の来日後は、当社が全責任を持って日本での生活及び日本国法律法令の遵守を指導・監督し、当社発展の一助となれるよう全面的に支援していく所存です。
  以上の次第ですので、御庁におかれましては当社の諸事情ご理解の上、申請人○□□氏の在留資格「技術・人文知識・国際業務」の一日でも早いご許可を賜れますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

 採用理由書を作成する際には、上記の項目「1.会社の概要」「2.採用の必要性と担当業務」「3.経歴と評価」「4.結語」に分けて記載していけば作成しやすいかと思います。A4で1枚~2枚程度で十分です。
 
 上記記載例は、貿易実務、海外渉外業務を担当する方の採用です。貿易実務、海外渉外業務が在留資格「技術・人文知識・国際業務」に該当していることは、それほど説明を必要としませんので、日本の大学での専攻と担当業務の適合性についてはあまり触れていません。
 しかし、担当業務の専門性や大学での専攻科目との関係性が、入国審査官の立場に立って一見してイメージしにくいような場合は、もう少し詳細にその事実について説明すべきでしょう。

 そして、上述しましたが、採用理由書はあくまでも入管必須提出書類の補足説明的な役割ですので、上記記載例を立証するための資料が最も重要となります。例えば、

 ・仕事もたくさんあり、人ひとり新たに雇用しても大丈夫→「会社の決算書」
 ・会社の概要が本当→「会社登記簿謄本、会社パンフレットなど」
 ・採用外国人の仕事がたくさんある→「輸出関係書類などの取引関係書類など」
 ・採用外国人を高評価している→「雇用契約書(給料)など」
 ・採用外国人の経歴→「卒業証明証、成績証明証、履歴書、資格証など」

という感じです。

 日本の就労ビザを申請可能な外国人の方は、優秀な方が多いと思います。きっと御社の発展に寄与してくれることと思います。是非、就労ビザを取得してあげて欲しいと願っています。




入国のお願い(入国理由書)作成のポイント


 ここでご説明する、入国のお願い(入国理由書)とは、採用理由書が会社側が主体となって作成するものであるのに対して、申請人(採用外国人)本人が作成する採用経緯書です。この入国のお願い(入国理由書)の作成提出は、もちろん任意ですが、様々なメリットがあるので、弊所では作成をお願いする事が多いです。
 
 なぜ「入国のお願い(入国理由書)」を作成しすると良いのかと言えば、雇用契約内容や予定職務内容を申請人もしっかりと理解している、という事を示すためです。雇用内容や職務内容は日本語で記載・説明されることが多いと思いますが、それですと申請人がそれらの内容を中途半端に理解してしまい、いざ働き始めてみると、「想像と違った。」「聞いていた話しと違う。」などという事態が発生し、せっかっく多大な労力をかけて雇ったのに早期離職ということになりかねません。

 このような状態は、会社にとっても採用外国人にとっても、そして入国管理局にとってもよろしい状態ではありません。会社にとっては採用に費やした費用のムダですし、本人にとっては死活問題、ビザの問題ですし、そして入国管理局としては(私見ですが)、離職→生活苦→違法就労、離職→別会社に就職→更新不許可→不法滞在・・・などを連想してしまいます。

 したがって、雇用契約内容や予定職務内容を申請人もしっかりと理解していることを示すことは、上記三者にとって有益であると考えられます。また、弊所としてもこれら内容をしっかりと理解していることは当然であるとも思います。

 採用外国人がしっかりと雇用条件、職務内容を理解しているかの確認のためにも、本人に一筆書いてもらっておいてもよいのではないでしょうか?日本語で作文できれば、日本語能力のアピールにもなります。日本語に不安があるようであれば母国語で書いても良いですが、日本語訳は必要です。

 以下記載例です。ご参考になれば幸いです。

                                  2017年○月○日 
○○入国管理局長 殿

                  
入国理由書

氏  名:○□□
国  籍:中国
生年月日:19○○年○月□日


 私は中国△△市出身の○□□と申します。20○○年に日本の△△大学国際ビジネス学部国際情報学科を卒業しました。卒業後は、中国に帰国し、○△□商貿有限に入社し、貿易実務(主に○○、△△△、□○□向けの輸出書類作成や連絡業務、国内外での買い付け等)を担当して現在に至っています。
 
 私は大学卒業後、母国で就職しましたが、日本で仕事をやっていみたいという気持ちも常にありましたので、時折インターネットで日本での求人を探していました。そして、株式会社○○○の求人募集を見つけ、私のこれまでの経歴を活かせる仕事だと思いましたので、求人に応募し、めでたく採用していただけることになりました。
 
 雇用条件には満足し、私の日本語能力とこれまでの経歴を高く評価していただいて、大変嬉しく思っています。日本入国後は、会社の期待に添えるよう尽力致します。また、面接の際に、会社専務取締役より「英語力も必要だ。」と伺いました。私は、英語はあまり得意ではありませんので、今後は英語の学習も行い、より一層会社に貢献できるよう努力する所存です。

 以上の理由により日本入国を希望する次第です。私が株式会社○○○で働けるよう在
留資格「技術・人文知識・国際業務」のご許可を頂けますよう宜しくお願い申し上げます。
 

 以下、入国理由書のまとめです。概ね以下の内容を盛り込むと良いです(もちろん真実の事だけです。)。

  • 出身地
  • 最終学歴、専攻学科
  • 来日までの職歴
  • 応募の理由
  • 自分の担当業務能力、スキル、経験、特技など
  • 雇用条件を理解している旨
  • 担当予定業務内容を理解している旨
  • 採用に至るまでの特筆すべきエピソード   など
 尚、この入国理由書は、上述した通り任意書類です。したがって、提出する必要は特にありません。しかし、比較的規模の小さい中小企業様の場合や過去に採用した外国人の方が労使トラブルなどで離職してしまい、また新たに外国人の方を採用したい時などには本人に作成させてみてもよいと思います。